[水中写真とシーサイドフォト:TOP] >[デジタル一眼レフ水中カメラ:MENU]
2002年11月20日

デジタル写真論

レタッチの本当の意味を理解する


    ■記憶色、期待色の再現

      おそらくフィルム(写真)業界や印刷業界だけの業界用語だと思われますが、 ”記憶色”や”期待色”という言葉があります。
      ”記憶色”とは、撮影者がある風景や被写体を撮影した時、 自分の脳に記憶されるその情景の色の事です。
      ”期待色”とは、写真や印刷において、「こういう色に出来上がって欲しい」と 期待している色の事です。
      そして”記憶色”も”期待色”も実際の真の色とほとんどの場合において異なる色なのです。
      たとえば、撮影者が綺麗な「南国の青い空とエメラルドグリーンの海」に感動して 写真を撮ったとします。その時、撮影者には感動という主観が加わる事でより 誇張された青い空とエメラルドグリーンの海が脳に記憶されるのです。
      もし、その時撮影された写真が実際のものにより近い色で再現されると、ほぼ例外なく 「この写真は、なんか違う。全然感動が伝わって来ない」とガッカリするのです。
      そこで、青や緑を誇張(彩度を上げ、コントラストを強調)すると 「まさにこの写真のような青い空とエメラルドグリーンの海だった!」と感動的な記憶が 蘇るのです。”記憶色”とはこのように作られた嘘の色なのです。そして世の中に存在 するほとんどのフィルムは、”記憶色”を再現する為に、多かれ少なかれ色を作って(誇張して) いるのです。
      もちろん、より忠実な色を再現するフィルムも有ります。それは商品カタログなど の撮影で使用されるフィルムやフィルムを複製する為のデュープ用フィルムといった、 特殊なフィルムです。

      そして、綺麗な写真で写真集を出版する場合はこうです。
      透過原稿であるフィルムの色を印刷物で忠実に再現する事は今の印刷技術ではできません。 詳しい話は色空間毎の色再現といった難しい話になるので、ここでは省略しますが、 カラーフィルムを原稿にカラー印刷物を作る際、印刷所はカラーフィルム上の色(RGB)に 似せる為に印刷用の色(CMYK)をもっともらしく作り直すのです。ここで重要な事は、元の色を 作りだすことではなく、見た目で元の写真と近いイメージに見えるよう再現する事なのです。
      前例の「南国の青い空とエメラルドグリーンの海」 における青色や緑色という色はもともとCMYKの色空間には存在しない色なので、CMYKの色空間 範囲でいかにらしく見せるか工夫して作り上げなければいけないのです。
      カメラマンや編集者は、らしくみえる色を印刷所が工夫して作ってくれる事に期待しているのです。 ”期待色”とはこういう色の事です。
      我々が普通に目にしている写真や印刷物の色は、意図的に加工されていない限り、我々は その色が本当の色だと思っているでしょう。 しかし、本当の色だと思っている色も実は”記憶色”や”期待色”といった極めてあいまいな 指標により作られ再現された色なのです。

    ■レタッチをするという事

      撮影者がレタッチソフトを使用し、デジタル画像の色やコントラストに手を加えるという行為は ”記憶色”や”期待色”を撮影者自身の記憶を元に再現するというひとつの作業工程に過ぎません。
      よく、レタッチソフトにより、デジタル画像の色やコントラストに手を加える事を ”真実の歪曲”だとか”インチキ行為”だといわんばかりにタブー視する方がいます。
      しかし、銀塩フィルムや印刷の世界における”記憶色”や”期待色”の再現の試行錯誤 の歴史を知れば、色やコントラストに手を加える事をタブー視するという行為は、 無知がゆえの愚行といわざるをえません。

      カメラマンが銀塩フィルムを選択するという事はフィルムメーカーがあらかじめ取り決めた色や コントラストの誇張方法(=フィルム独自の発色)を選択したという事なのです。 水中写真や風景写真の多くのプロ写真家達が愛用しているベルビアが、いかに色や コントラストを誇張してるか、という事実をいまさら述べるまでもありませんよね! ベルビアで撮る行為もデジタル画像をレタッチソフトで誇張する行為も手法が 変わった、ただそれだけの事です。

      写真を原稿としてラボや印刷所に出すという事は、ラボや印刷所のオペレーター に、写真をらしくプリント、印刷するよう、色やコントラストの加工を指示した のと同じ事です。オペレーターのやっている作業とレタッチソフトによる作業と では何も違いはありません。

      銀塩フィルム時代は、たまたまカメラマンが色やコントラストに手を加える機会が 少なかっただけで、カメラマンの知らない世界(フィルムメーカーやラボや印刷所) で、色やコントラストに手を加えられていたのです。

      モノクロのプリントを経験した方なら、暗室作業で作品のイメージを 大きく変える事ができるという事はご存知ですよね? 暗室作業での覆い焼きとレタッチソフトでの階調補正、手法が変わっただけで 目的は同じです。

      写真がデジタルになる事によって、今まで以上にカメラマン自身で ”記憶色”や”期待色”を直接再現させるという作業が身近になったのです。 ”記憶色”や”期待色”は、もともと撮影者本人だけの主観的な感覚色なのですから カメラマン自身の手で再現するという事が本筋なわけです。 その意味では、フィルムよりデジタルの方がより写真の本質に近付いたと言えるの ではないでしょうか?

BACK DSLR Menu NEXT